天然由来の植物耐乾燥ペプチド剤

2025/09/08 14:49 - By Tech Manage

ABA非依存性の新規シグナル経路に作用し、植物の迅速な気孔閉鎖と乾燥耐性を向上させる

Advantages

  • 迅速な気孔閉鎖を誘導:従来のABAと比較して、乾燥ストレスへの反応が速い。
  • 新規の作用機構:既存のABAやROS経路とは異なる経路で作用し、既存技術との併用や補完が可能。
  • 幅広い植物種に適用可能:モデル植物だけでなく、さまざまな作物・花卉にも応用可能。

Background and Technology

近年の地球温暖化は農業環境に深刻な影響を与え、特に高温と乾燥の増加は作物の収量低下や品質劣化を引き起こすことが問題となっている。植物は葉の気孔の開閉によって水分量を調節するが、高温下で気孔が過度に開くことで過剰な水分が失われ、植物に大きなダメージを与える。この課題に対応するため、植物の気孔開閉を制御し、耐乾燥性を向上させる技術が強く求められている 。
通常、植物は乾燥ストレスを受けると、まず気孔を閉じて蒸散を抑制する。このプロセスに先行して、ストレスホルモンであるアブシジン酸(ABA)が徐々に蓄積され、乾燥耐性を高める。しかし、気孔閉鎖の開始とABA蓄積の間にはタイムラグが存在し、この両者を調整する分子メカニズムは未解明であった 。
本発明者は、この未解明なメカニズムに光を当て、植物がもつ天然由来のペプチドであるDSP1が、気孔閉鎖を迅速に誘導する活性を持つことを発見した。このペプチドは、気孔を構成する孔辺細胞に存在する受容体複合体「DSPR1-DSPR3」に直接結合し、シグナルを伝達することで気孔を閉じさせる 。この作用は、ABA欠損変異体においても確認されており、既知のABAや活性酸素種(ROS)の経路を介さない、全く新しいシグナル伝達経路であることが示された 。このメカニズムは多様な植物で保存されており、乾燥耐性作物の育種や、野菜・花卉の鮮度保持を目的とした農業・流通資材への幅広い応用が期待される。

Data

  • DSP1変異体と野生型の植物を短時間の乾燥ストレスにさらし、葉の水分損失を比較したところDSP1変異体は野生型より早く水分を失い、DSP1が乾燥耐性に重要であると示された。
  • DSP1を葉に投与し、30分後に気孔閉鎖効果を示した(下図)。
  • ABA欠損変異体でDSP1投与試験を行ったところ、ABA欠損変異体でもDSP1が気孔閉鎖を誘導した。

Expectations

名古屋大学では、本発明のライセンス導入によるペプチドの製品化や、低分子リガンドスクリーニングの開発をご検討いただける農薬・農業資材関連の企業様を探しています。本発明/プロジェクトに関し、研究者との直接のご面談によるお打合せも可能ですので、ご希望がございましたらご相談ください。

Patents

特許出願済み(未公開)

Publication

論文掲載予定

Researchers

下遠野 明恵 特任講師 (名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)


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