早産児の神経発達を改善する栄養剤および治療薬の開発

2025/09/10 11:07 - By Tech Manage

mTORシグナル制御による神経幹細胞の維持とニューロン新生の促進メカニズムの応用

Advantages

  • 早産児の神経発達異常の分子メカニズムを解明
  • mTORシグナルの抑制剤であるラパマイシンを用いた治療の可能性
  • 早産児の神経発達予後を改善する栄養・薬剤開発への応用が期待される

Background and Technology

早産児は、発達障害や精神疾患を合併しやすいことが臨床的に知られている。しかし、早産の神経発達への影響を分子レベルで解明した研究は限られており、病態メカニズムに基づく治療戦略が確立されていない。
早産マウスモデルを用いてメタボローム解析とシングルセル遺伝子発現解析を行い、正期産マウスでは脳室下帯に存在する神経幹細胞である放射状グリアにおいてグルタミノリシス(グルタミン分解によるαケトグルタル酸合成)が低下することを明らかにした。一方、早産マウスでは放射状グリアにおけるグルタミノリシスの低下が不完全となり、αKGが蓄積しmTORCシグナルが活性化することが示された。この結果、早産マウスでは放射状グリアが過剰に活性化状態となり、神経前駆細胞の産生が一時的に増加した。しかしこれは、神経幹細胞プールの枯渇を招き、長期的には早産マウスでは神経前駆細胞や新生ニューロンの産生が減少することが明らかとなった。
早産マウスにmTORシグナルの抑制剤であるラパマイシンを投与したところ、放射状グリアの過剰活性化が抑制されるとともに、神経幹細胞の維持が促進され、ニューロン新生が正常化することが実証された。この発見は、早産児の神経発達を改善する新たな治療戦略の基盤となる可能性を示し、栄養食品や治療薬開発への応用が期待される。

Data

  • 早産マウス(■)では正期産のコントロールマウス(□)と比較して、出生後一時的に神経前駆細胞(Mash1陽性細胞)が増加するが、その後減少し、47.5日目には新生ニューロン(Dcx陽性細胞)の産生が低下していた(A,B)。ヒトの早産児の剖検脳において、Dcx陽性細胞(新生ニューロン)の数が正期産児に比べて有意に減少していた(C,D)。
  • 早産マウスの出生後0日後と2日後にmTORシグナル阻害薬であるラパマイシンを投与したところ、出生後29日目における神経前駆細胞が増加し、ニューロン新生が改善した。

Expectations

名古屋市立大学では、本研究のメカニズム解明に基づく早産児向けのグルタミン代謝・ニューロン新生を正常化させる栄養食品や早産児の神経発達治療薬を共同開発していただける企業様を探しています。研究者との直接のご面談によるお打合せも可能です。

Patents

特許出願中

Publication

Kawase et al., Sci. Adv. 11, eadn6377 (2025), [DOI]:10.1126/sciadv.adn6377

Researchers

澤本 和延 教授 (名古屋市立大学 医学研究科)ほか


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