マッドクラック状パターンをもつ樹脂コーティングが、冷却中に生じる膜沸騰の発生を抑制。伝熱面に形成される微細クラックが、効率的な核沸騰への移行を促し、冷媒による高効率な冷却を実現する。
Advantages
- 高い冷却効率:膜沸騰から遷移沸騰への移行を促進することにより、伝熱効率を向上させ、冷却時間の短縮や冷媒使用量・エネルギーの削減に繋がる。
- 幅広い素材に簡単に適用:ディッピング、刷⽑、スプレーなどの簡便な方法でコーティング可能であり、金属だけでなく、プラスチックやガラス、木材、布など広範な対象に対応できる。
Background and Technology
沸騰冷却は、液体が発熱面で気化(蒸発)する際の潜熱を利用して効率的に熱を奪う冷却技術である。沸騰過程では大量の熱が吸収されるため、極めて高い冷却能力を持ち、パソコンのCPU・GPU、データセンターのサーバー、パワー半導体、大型リチウムイオンバッテリーなど、様々な分野での応用が進んでいる。
一方で、冷却初期には伝熱面に蒸気膜が形成される膜沸騰が発生し、熱伝達が著しく妨げられることが知られている。冷却効率を高めるためには、この膜沸騰を速やかに核沸騰へと移行させる必要がある。従来は、金属表面に微細加工(テクスチャリングや多孔質化)を施すことでこの課題に対応しようとする手法が提案されてきたが、さらなる効率向上を目指した研究が活発に行われている。
本研究では、冷却対象の表面に樹脂をコーティングすることで予冷時間を大幅に短縮できることを見出した。急冷により、コーティングされた樹脂に熱収縮由来のクラックが自発的に形成される。このクラックが気泡発生の核となり蒸気膜を破壊し、核沸騰への移行を促して効率的な伝熱を実現する。
本技術は、この自発的に形成されたクラックを高性能な伝熱面として活用するため、特別な加工を必要としない。樹脂はディッピング、刷毛塗り、スプレーなど簡便な方法で成膜可能であり、広い面積や狭小空間、曲面(配管内面など)にも適用できる。本技術は、冷媒タンクや配管内面のコーティングによる冷媒使用量の削減や冷却時間の短縮に加え、iPS細胞や卵子などの凍結保存容器への応用により、高速冷却による生存率向上や品質保持など、多様な展開が期待される。
また、本研究により、金属のみならずプラスチック、ガラス、木材、布などにも適用可能な樹脂が見出されており、今後はより高温の冷媒環境下でも冷却性能の向上が見込まれる。
Data
- 液体窒素の入った浴槽中での、伝熱面の冷却時間を樹脂コーティングの有無で比較すると、290Kから90Kまでの冷却時間を80%短縮した。なお、-100℃(約173K)程度までの冷却時間は約50%の短縮になることが示唆される(図1)
- 1回樹脂をコーティングしたのち、繰り返し5回冷却したところ、2回目以降は室温で膜沸騰領域が消滅し、さらに予冷時間が短縮された。2回目以降の冷却曲線に変化がないことから、クラック形成にも変化がないことを確認した(図2)
- 新たに見出された樹脂コーティングの冷却効率については未発表。

Expectations
本研究者らは、本技術の利用や評価検証等にご興味のある企業との情報交換や協業に関するディスカッションを希望します。本技術を御社がお考えの用途で実際に検証してみませんか。一例として、以下の用途での活用可能性が期待されますが、これらに限らない用途でのコラボレーションも歓迎します。
- 冷却装置の性能向上:液浸冷却装置、ヒートパイプなど電子機器の冷却装置
- 洗浄性能の向上:ドライアイスを使った洗浄機器
- 冷却による損傷低減:食品の凍結濃縮容器、研究用細胞や細胞医薬品、卵子など細胞の凍結保存容器、クライオ電子顕微鏡のための試料観察・準備用の機器
- 冷媒使用量やエネルギー削減によるコスト削減:NMRやMRIなど超電導を利用した機器の冷媒貯蔵容器
研究者との直接のご面談によるお打合せも可能ですので、ご希望がございましたらお気軽にご相談ください。
Patents
Publication
- 高畑一也, フッ素樹脂コーティングによる予冷時間短縮,低温工学/58 巻 (2023) 6 号 DOI: https://doi.org/10.2221/jcsj.58.276
- 2024 新技術説明会での発表動画
Researchers
高畑 一也 教授(核融合科学研究所)
以下のフォームからお問い合わせください