予冷時間を大幅短縮する樹脂コーティングは、冷媒の効率的な移送・貯槽や細胞・食品等の
急速冷凍など幅広い分野での活用が期待される
Advantages
- 予冷時間の大幅短縮:冷媒使用量の削減、冷却時間効率の向上などに繋がる。
- 冷却時間の短縮:生殖細胞や食品などを短時間で凍結し、細胞生存率の向上や品質低下リスクの抑制などに繋がる。
Background and Technology
極低温機器の配管やタンクを液体窒素や液体水素で予冷する際には、冷媒の消費量を抑え、効率的に作業を進めるために、予冷時間を短縮することが重要となる。また、生体細胞の凍結保存においては、保存後の生存率が一概に高いとは言えず、生存率を向上させる急速冷凍技術が求められている。しかしながら、予冷の初期段階では、伝熱面に蒸気膜が発生することによる膜沸騰が起こり、熱伝達が妨げられることが知られている。予冷時間を短縮するには、この膜沸騰を速やかに核沸騰に移⾏させる必要がある。この課題に対し、従来は⾦属の壁⾯に微細加⼯(テクスチャリング、多孔質化)を施すことでこの問題を解決しようとする⽅法が提案されていた。しかし、これらの加⼯には特殊な装置が必要で、広い範囲や曲⾯へは適用が難しい等の問題があり、極低温の機器への利用は進んでいない。
今回、本研究者らは、被冷却物の表面に樹脂をコーティングすることで大幅に予冷時間を短縮できることを見出した。急冷により、コーティングされた樹脂には熱収縮によるクラックが自発的に発生する。このクラックが気泡発生の核となり蒸気膜を破壊して、核沸騰へ移行させ効率的に伝熱を促進する。本技術では樹脂表面は自発的に発生するクラックを高性能伝熱面として利用するため、特別な加工は不要であり、樹脂をディッピング、刷⽑、スプレーなど簡便な方法で形成でき、広い範囲や狭い空間、曲⾯(容器や配管の内⾯)への加工も可能となる。本技術は、冷媒を貯槽するタンクや配管の内面をコーティングすることによる冷媒使用量の削減や時間効率の向上だけでなく、iPS細胞や卵子などの細胞凍結容器の外側への加工により被冷却物を高速冷却し、細胞生存率の向上や品質低下を防ぐ応用など広い利用が期待される。
Data
- 液体窒素の入った浴槽中での、伝熱面の冷却時間を樹脂コーティングの有無で比較すると、290Kから90Kまでの冷却時間を80%短縮した。なお、-100℃(約173K)程度までの冷却時間は約50%の短縮になることが示唆される(図1)
- 1回樹脂をコーティングしたのち、繰り返し5回冷却したところ、2回目以降は室温で膜沸騰領域が消滅し、さらに予冷時間が短縮された。2回目以降の冷却曲線に変化がないことから、クラック形成にも変化がないことを確認した(図2)
Expectations
- 液化天然ガスや液体酸素、液体窒素、液体水素などの貯蔵タンク、運搬用タンク、配管
- 食品の凍結濃縮容器
- 研究用細胞や細胞医薬品、卵子など細胞の凍結保存容器
- クライオ電子顕微鏡のための試料観察・準備用の機器
- NMRやMRIなど超電導を利用した機器の冷媒貯蔵容器
Publications
- 高畑一也, フッ素樹脂コーティングによる予冷時間短縮,低温工学/58 巻 (2023) 6 号
DOI: https://doi.org/10.2221/jcsj.58.276 - 2024 新技術説明会での発表動画
Patents
特許出願中(未公開)
Researchers
高畑 一也 教授(核融合科学研究所)