AIを用いた血中ナトリウム濃度の予測システム

2023/01/20 17:33 By Tech Manage

対象者より取得するいくつかの予測因子を入力することにより、将来時刻における血中ナトリウム(Na)濃度を予測するAIであり、血中Na濃度の適正な補正が可能となり、低ナトリウム血症に起因するリスク症状の予防につながる。

Advantages

  • 専門医を必要としない予測システム。
  • Na濃度のモニタリング頻度を減らすことが可能。

Background and Technology

低ナトリウム血症は、血液中のナトリウムとの比で水分量が相対的に多い状態であり、うっ血性心不全、肝疾患、抗利尿ホルモン不適合症候群、薬剤(例:サイアザイド系利尿薬、向精神薬、化学療法剤)の影響など様々な病状で確認されている。低ナトリウム血症で入院した患者の死亡リスクは、正常に比べ50%以上増加するとの報告もある。特に重症低ナトリウム血症は、意識障害やけいれんなどの重篤な中枢神経症状の原因であり、脳浮腫による脳ヘルニアから死に至ることもある緊急疾患である。
これに対し、生理食塩水の点滴による血中Na濃度の早急な補正が必要となるものの、短時間で過度な血中Na濃度の上昇は浸透圧性脱髄症候群(ODS)を引き起こしてしまう恐れがある。ODSの25%は神経障害・25%は死に至り治療法はない。ODSを予防するために、安全を確かめながら適切な速度で点滴を行う必要があり、血中Na濃度のモニタリングを3時間毎、夜中も2-3日行っていた。そのため、患者にも医療従事者にも負担となっていた。
今回、研究グループでは血清ナトリウム濃度の予測モデルを構築したいと考え、研究を進められた。名古屋大学病院にて収集したデータより予測因子となる7つを選択した。選んだ7つの因子(静脈内輸液と経口摂取の合計、輸液中のNaとKの含有量、尿量、血清Na、K、Cl値)は、臨床的に入手しやすいものである。
また、水泳やマラソン、トライアスロンなどのスポーツにおいても低Na血症の危険視されており、死亡例も報告されている。また、最適な水分補給はパフォーマンスを維持するための効果的な戦略とも考えられており、本技術はスポーツ分野においても活用の可能性が期待される。

Expectations

  • 予測因子の組み合わせや回帰モデルの選択による精度の違いについてホールドアウト検証や10分割交差検証により評価した。SVRモデルは、輸液投与6時間後の血清Na濃度を良好な精度(RMSE of 0.0048081, R2 of 0.94)で予測可能なことを確認した。今後は他施設も含めたより多くの患者データを使用した精度検証が必要と考えている。
  • 血中Na濃度や輸液内容等は、電子カルテシステム等で管理されている。本予測モデルとの組み合わせにより、血清Na濃度の異常が予測される際に医師にアラートを出すシステムに繋がることが期待される。電子カルテや医療情報システムメーカーとの協業によるさらなる開発を希望します。
  • 本機械学習モデルは輸液の制御システムと連動させることも考えられ、投与量の自動的な制御など、安全性の向上と医療従事者の負担の軽減に繋がるシステムとなることが期待されます。輸液ポンプメーカー等との協業によるさらなる開発を希望します。
  • その他、スポーツ分野での活用も期待されますが、現段階ではそのようなデータは取得出来ておりません。初期的な段階からの共同開発にご興味ございましたら、スポーツ科学等の分野に関心のある企業とのお話を希望します。

Publications

Patents

  • 特許出願中(未公開)

Researchers

大山 慎太郎 准教授(東海国立大学機構名古屋大学 未来社会創造機構 予防早期医療創成センター)


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