胃および十二指腸ESDにおける局注剤・術後潰瘍保護剤・治癒促進剤

2024/02/06 13:33 By Tech Manage

ESDの最大の難関「術中穿孔」、「遅発穿孔」を解決し、多機能な応用が可能なハイドロゲル材料

Advantages

  • クリップによる縫縮や保護シートリリース等の高難度な処置を回避可能
  • 長期間の粘膜挙上と治療後に潰瘍表面に留まり消化液の侵襲防御を実現
  • 組織片、生体ブタでの性能実証済み

Background and Technology

早期消化管がんを切除する内視鏡治療法(ESD)は、外科手術に比して身体的侵襲性が少なく、かつ、病変を正確に切除することにより根治に持ち込める画期的な手法として普及してきた。一方でその安全性は、特に消化管穿孔という致死的合併症に関して未解決であり、特に壁が薄い十二指腸はエキスパートにおいても難易度が高い。原因として、術中に粘膜の挙上が不十分であると安全な剥離が困難となり、強い消化酵素を含む膵液の暴露が出血、術後の遅発穿孔につながる。術中穿孔は胃では1-5%、十二指腸では12.8%、遅発穿孔は胃で0.5%、十二指腸は2.2-14.3%といわれる。
現在、十二指腸ESDは限られた施設でのみで行われる。局所注入剤として、従来アルギン酸ナトリウムやヒアルロン酸が用いられているが、性状が液体であるため、時間の経過とともに組織内から流出しやすく、十分な粘膜挙上が得られない課題があった。また、遅発穿孔を防ぐためにクリップなどで潰瘍を縫縮したり、膵液の暴露を防ぐため内視鏡的ドレナージを行うが、いずれも難易度が高く、不十分に終わることがある。また、「組織欠損部保護用シート」が内視鏡治療後の出血予防や、組織被覆に効果があるといわれ臨床応用が進められているが、内視鏡を使って的確にシートをリリースし、固定することが難しい。
本技術は、粘膜下層内に留まる局所注入剤として考案された新たな材料で、水溶性アルギン酸塩に炭酸カルシウムを懸濁させた第1の溶液、水溶性キトサン塩を含み酸性に調整した第2の溶液、水溶性の高いカルシウムイオン供与体を備える第3の溶液からなる処置部材形成剤であり、これらを適切なタイミング・濃度比で混合し、均一にゲル化させて用いることにより、従来品で得られない効果的な粘膜挙上や粘膜剥離後の粘膜下層に留まり潰瘍保護を実現し、さらには治療促進効果を有するハイドロゲルが形成可能となる。本材料は、生体ブタの胃、十二指腸ESDモデルを用いて実証済みで、本材料によって、組織がアルギン酸ナトリウムよりも良好に粘膜挙上され、粘膜下層の線維を支持組織として本材料が良好に固定され、ESDで粘膜を切除した後も一定期間組織内に留まることが示された。

また、本技術における新規ハイドロゲルは、消化管外科手術における縫合不全部の瘻孔閉鎖にも応用できることを豚実験で確認している。欠損部周囲に局注して組織内にゲルを形成させることで、ゲルを含んで膨化した周囲組織が瘻孔部分を密着させた状態を維持し、線維増生を促して永久的閉鎖に導く。保存的治療が難しい分野における新規内視鏡治療法として価値が高い。

Expectations

現段階:組織片、生体(ブタ)による本材料のコンセプト・性能の実証が完了。
次段階:①周辺組織への影響などの検討・検証(進行中)
    ②使用目的・ケースに合わせた最適プロトコルの確立
    ③医療承認取得に向けた実証
技術導入、または上記の実用化/開発コラボレーションに関心のあるパートナー企業を募集しています。先ずは、技術の詳細説明とディスカッションから、スタートさせていただければ幸いです。

Publications

Yusuke et al., “Novel endoscopic management of gastroenterological anastomosis leakage by injecting gel-forming solutions: an experimental animal study”, Surg Endosc. 2023 Oct;37(10):8029-8034.

Patents

国際出願済み

Researchers

北海道大学病院 光学医療診療部 山本桂子
北海道大学病院 医療・ヘルスサイエンス研究開発機構 渡邊祐介
北海道大学大学院 先端生命科学研究院 黒川孝幸
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