反射面を精密かつ大胆に変形できるX線ミラー、X線顕微鏡

2025/05/26 16:04 - By Tech Manage

Advantages

  • 圧電素材(ニオブ酸リチウム)を使い、電気でミラーの形を微調整
  • 複数の圧電素材を重ねる構造により、大きく正確なミラー変形を実現
  • 電極配置を層ごとにずらす工夫で、ミラー表面を均一かつ高精度に変形制御
  • X線顕微鏡やその他波長の光学系を精密制御し、さらなる高解像度化、高品質化に寄与
  • 新しい光学系技術として導入する企業を探索中

Background and Technology

X線を反射するミラー(X線ミラー)は、高い空間分解能を持つ非侵襲的なイメージング技術であるX線顕微鏡の結像光学系に用いられている。X線ミラーは良質な光学系を構成できる一方で、X線を反射する表面を非常に緻密に加工しなければならず、製造や使用時の校正が容易でないという課題がある。
名古屋大学工学研究科の松山智至教授と井上陽登助教は、反射面の表面形状を微細に調整できる新しいX線ミラー「形状可変ミラー」を開発した。このミラーは、ニオブ酸リチウム(LiNbO3、「LN」と呼ぶ)という素材でできている。LNは電圧が加わると形状が変化する「圧電効果」を示す素材であり、これをミラーの基材に用いることで、使用中でも表面形状を微調整することが可能となる。実は、この形状可変ミラーは数年前に松山先生らによって一度開発されたものである。しかし、当時はLNを一層しか使っていなかったために問題が発生した。今回の形状可変ミラーは次の2つの問題を新開発の工夫によって解決した。
    1. 問題:LNには印加できる電圧に上限があり、つまり変形量に限りがある。反射面を制御するにはその変形量では足りなかった。
      → 解決:LNの層を複数積層した基板構造(図1参照)とすることで、1層のLNでは得られなかった大きな変形を実現した。
    2. 問題:電圧を印加するための電極同士が近過ぎるとショートしてしまうため、電極の間には一定の隙間が必要。そのため、ミラーの表面を均一に変形することができない。
      → 解決:複数のLNを積層して基板を構成する際に、それぞれの層ごとに電極の配置をずらす工夫を施した。これにより、ミラーを均一に変形することに成功した。
図1 左:従来の単層型LNによる形状可変ミラー。右:本技術で開発した、多層接合型の形状可変ミラー。

Data

図1に示すミラーについて有限要素法による変形シミュレーションを行い、その結果を図2に示す。本ミラーは、厚さ4 mmの基板1枚と0.5 mm厚の基板複数枚で構成され、全体の大きさは約20 mm角である。電極は幅1 mm、電極間隔も1 mmに設定されている。図2の結果から、本技術により0.1 nmレベルの極めて高精度な反射面制御が可能であると期待される。
現在、図1に示す構造のミラーを実際に製造し、その性能評価を進めている。単層型に比べて変形量を数倍大きくできることを確認した(単層型が約15 nm/Vに対して、本技術は約54 nm/V)。また、電極ごとに個別に電圧を印加したところ、該当部位のみが精密に変形し、想定どおりの挙動を示すことが確認された。本ミラーが設計通りに動作していることから、X線像のさらなる高解像度化および画質向上が見込まれる。

図2 変形量のシミュレーション結果

Expectations

本技術を採用したX線ミラーや、そのX線ミラーを搭載したX線装置を製品化する企業様を探しています。ぜひ、貴社の次世代事業として導入をご検討ください。また、本技術はX線に限らず、紫外線や可視光にも適用できます。光学系にお悩みでしたらぜひご相談ください。製品化を進めていただくにあたっては、以下のよう段階を経て、技術や知見を大学から提供できます。

  • ご質問への対応
  • 先生とのご面談による詳細説明
  • NDA締結下での情報交換
  • 共同研究
  • 特許ライセンス

Patents

  • 特許出願済み。未公開

Publication

Researchers

松山智至 (名古屋大学 工学研究科 教授)
井上陽登 (名古屋大学 光学研究科 助教)

以下のフォームからお問い合わせください

Tech Manage