荷電粒子ビームの空間分布の高解像測定技術

2023/05/30 12:54 By Tech Manage

加速器、電子顕微鏡や集束イオンビーム装置のビームの校正や質向上を促す計測技術

Advantages

  • 高速(ほぼ光速度)で通過する荷電粒子ビームの電荷分布を非常に高い空間・時間解像度で測定する新技術
  • 粒子線治療施設での治療効果向上や被曝量の低減が期待される
  • 電子顕微鏡や集束イオンビーム装置での観測精度・加工精度の向上が期待される

Background and Technology

加速器や、電子顕微鏡・電子線加工機(溶接機、切削器)などにおいて、生成された荷電粒子の塊がどのような3次元形状を持っているかを知ることは意義が高いことだが、その測定は非常に難しい。例えば、重粒子線治療においては、患者の体内で発生する粒子の挙動を予測するシミュレーションを行う際に、荷電粒子の塊の3次元分布を精密に反映することで、治療効果の向上や無駄な被曝を低減することができる。また、電子顕微鏡においても、電子ビームの集束や収差補正のために多数の電磁石を用いるが、それらが設計通りに機能しているかを検証するには、ビームの3次元分布を測定することが直接的な方法である。
しかし、非常に高速(ほぼ光の速度)で通過する荷電粒子の分布を、非接触で測定する手法はこれまでほぼ存在しない。従来提案されている手法では、十分な空間分解能が得られていない。

大阪大学レーザー科学研究所の中嶋誠准教授は、荷電粒子の電荷分布を高い空間分解能で測定する新技術を開発した。
本技術の原理は、電気光学結晶で生じる複屈折の変化(ポッケルス効果)を測定する手法である。電気光学結晶の近傍を測定対象(荷電粒子の塊)が通ると、荷電粒子の持つ電場の影響で結晶中の屈折率が変化する。レーザー光を電気光学結晶に照射することで、レーザー光がこの屈折率の変化に影響を受ける。その影響を光センサで読み出すことで荷電粒子由来の電場の時間変化を測定し、荷電粒子の電荷分布を再構成する。この手法は以前から存在していたが、荷電粒子が結晶の前を通過する一瞬でしか測定できないため、粒子の塊の一断面を測定しているだけであり、塊全体の様子を測定することはできなかった。
本技術では、レーザー光に工夫を施すことで、粒子の塊の断面を断続的に測定することができ、塊全体の様子を測定できる。すなわち、レーザー光をエシュロンミラーで反射させることで、一つの光の束の中に、時間差を持つ複数の光線を発生させた上で、電気光学結晶に導入する。つまり、それぞれの光線は少しずつ時間的に遅延しながら結晶に入る。そしてそれぞれの光線がその結晶に入るごとに粒子の塊に由来する屈折によって影響を受けて、結晶から出て行く。最後に、それぞれの光線をシリンドリカルレンズなどにより集光したのち、光センサで検出する。それぞれの光線は結晶に入射したタイミングにおける粒子の雲の断面情報を持つので、断面情報を断続的に集めることで、粒子の雲の全体像を把握できる。

図 1 本技術の測定装置の概要。図中央の電子ビーム(EB)からZnTeが影響を受けることで、ZnTeに入射したレーザー光(赤色の帯)が変化しこの変化を読み取ることでEBの分布を計測する。入射するレーザー光は図下側のエシュロンミラー(EM)で時間差を持つ光束になるため、時間的に連続してEBの分布が測定できることが大きな特徴である。(Nature Phys. volume 18, pages1436–1440 (2022))

Expectation

大阪大学は、本技術のライセンスを受け、荷電粒子の電荷分布測定装置を開発する企業を探索しています。パートナーシップに関する契約を大学と締結することで、製品開発に必要となるノウハウの提供や、共同開発体制を構築できます。
また、電子顕微鏡メーカーや集束イオンビーム装置など荷電粒子ビームを扱う企業からのニーズ情報を募集しています。パートナーシップに関する契約を大学と締結することで、貴社の課題を解決するための装置を共同開発することができます。

Application

医療分野:
重粒子線治療に用いる粒子線の校正。治療前に行う、照射する粒子線量や照射位置を検討するためのシミュレーションにおいて、高精度な予測が可能になり、治療効果の向上や被曝量の低減が期待できる。

工業分野:
・電子顕微鏡や集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム溶接装置、半導体製造における不純物ドープ装置などの粒子線の校正。微細加工の精度向上が期待できる。
・FIBや電子顕微鏡における測定試料の帯電(チャージアップ)の測定。本技術を応用することで、物体の帯電状態を測定する装置が開発できる。チャージアップによって生じる、半導体回路の短絡による破壊や顕微鏡像のブレ・ズレを防止する機構開発などに応用できる。

Publications

本技術の説明と、本技術を使った、特殊相対性理論を110年越しに実証する実験結果の報告


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