接合しても強度が劣化しないという特徴を持つ金属の接合技術

2023/09/26 15:39 By Tech Manage

Advantages

  • 金属を接合しても、接合部の強度が劣化しない。接合部が母材と同等の強度になる。
  • 摩擦圧接、摩擦攪拌接合、電気を使った抵抗接合で、効果を実証済み
  • 本技術は種類が異なる金属同士の接合も強度の劣化を極力少なくする

Background and Technology

大阪大学 接合科学研究所JWRIは、世界でもあまり例のない、接合技術を専門とする研究機関である。このたび、このJWRIの現所長である藤井英俊教授が開発した、画期的かつ実用的な接合技術を提案する。
藤井らは、金属の新しい接合技術を開発した。この技術を使うことでできる接合部材は、接合部の強度が、驚くべきことに、母材と同等かそれ以上である。従来の溶融溶接技術では、接合面の金属が溶融するため、接合部の強度が劣化することが常識だった。特に炭素量が多い鋼(中炭素鋼やハイテン鋼など)は溶融溶接が非常に難しいことが知られている。しかし、藤井らの技術は、接合面の温度を必要以上に加熱せず素材を固相状態のままで接合する固相接合の技術である。加えて、より低い温度で接合する条件を適用することで、結晶状態の変態の抑制や、熱影響部と呼ばる素材の劣化現象を抑制、そして素材に施された素材の強度加工(加工硬化や析出強化、結晶粒制御など)を破壊しにくくできる。結果として、藤井らの技術で接合した部材は、接合部の強度が母材と同等になる。
藤井らの技術の科学的なコアは、圧力による接合時温度の制御、である。下図は、接合時に印加されている圧力(横軸)とその圧力において塑性変形を起こす温度(縦軸)の関係性を示している。この関係は通常、負の相関を持っており、材料に印加された圧力が高いほど塑性変形する温度は低くなる。つまり、接合する際に十分高い圧力を被接合材に印加すれば、接合部界面の金属が低い温度で変形することで、金属同士が混ざり合って接合することができる。そしてこの温度は、鉄であればA1変態点温度を下回るため、パーライト(フェライト、セメンタイト)がオーステナイトに変態せずに接合することができる。その結果、熱影響部のような脆化する部分が発生せずに、母材の強度を保ったままの接合材を作ることが可能になった。この圧力による接合時温度の制御を適用した接合技術を「圧力制御型の固相接合技術」と呼ぶ。

圧力制御型の固相接合技術は、大阪大学の研究において、3つの接合手法に適用されている。

摩擦圧接

丸棒のような円筒形を持つ二つの被接合材同士を押しつけながらそれぞれを回転させることで生じた摩擦熱を使って加熱し、接合する方法。圧力制御型の固相接合技術では、回転数を低く(100 rpm以下)しつつ、十分な圧力を印加することで低温での接合条件を実現できる。実際、素材がS45CであるΦ10の丸棒材を接合したところ、熱影響部の発生を抑制するとともに、引張強度が母材と同等以上であることを確認している。
摺動運動によって生じる摩擦熱も金属素材を固相接合する。これは、線形摩擦接合と呼ばれる。板状や角状の被接合材同士を押しつけながら、一方向にこすりつけることで接合する方法である。この方法であっても、圧力制御型の固相接合技術が適用でき、引張強度が母材と同等である部品を製造できる。

摩擦撹拌接合(FSW)

付き合わせた板状の被接合材に対して、ツールと呼ばれる硬い金属からなる円筒を回転しながら押し当てることで、被接合材の突合せ部分の金属素材を混ぜ合わせることで接合する方法。圧力制御型の固相接合技術では、ツールが回転数を低くし、かつ十分な圧力を印加することで、熱影響部の発生を抑制するとともに、引張強度が母材と同等以上である接合物を中高炭素鋼で実現している。

通電圧接

丸棒や角棒、パイプなどの被接合材を付き合わせて配置したのち、被接合材の中に流した電流によって突合せ部分に生じるジュール熱で加熱し、接合する方法。印加する電流量を調整することにより接合部の温度上昇を抑制することで、圧力制御型の固相接合技術を実現する。この手法でもS45C丸棒(Φ10)を接合し、引張強度が母材と同等以上であることを確認した。
圧力制御型の固相接合技術は特殊な金属素材の接合にも利用できます。例えば、炭素濃度が高い鉄鋼素材、鋳鉄、ハイテン鋼、そのほか特殊な組成や組織である金属素材に適用できます。また、鉄だけでなく、チタンやニッケル、アルミニウムなどの非鉄材料でも本技術は強度劣化を生じにくくします。異なる素材を組み合わせた接合でも本技術は強度劣化を最小限にすることができます。

Expectations

本技術を採用した接合装置を製品化する意欲を持つ企業を探しています。製品開発は企業側が主体となって行ってください。大学はそうした企業に対して、共同研究などを通して本技術の研究成果を移転します。また、大学が保有する特許をライセンスします。

Patents

大阪大学は、圧力制御型の固相接合技術に関する多数の特許を取得または出願している。また、欧米でも権利を取得している。


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