L-サッカロピン:老化の指標となるミトコンドリアの機能低下が反映される代謝マーカー
Advantages
- 非侵襲的な老化診断: 血液や尿を用いたL-サッカロピン測定により、簡便に老化進行度を評価可能。
- マーカーとしての妥当性:早老症やミトコンドリアの機能異常との関連が明確であり、老化マーカーとしての妥当性が高い
- 抗老化作用の解明:本発明の知見に基づきリジン代謝の制限による抗老化作用が示されており、アンチエイジング創薬や機能性食品の開発につながることが期待される
Background and Technology

従来の老化バイオマーカーとしては、老化関連βガラクトシダーゼ活性、テロメアの短縮、細胞周期阻害因子(p21、p16など)が知られている。しかし、これらの評価には細胞や組織の採取および解析が必要であり、侵襲性が課題となる。そのため、血液や尿などのサンプルを用いた簡便なバイオマーカーが求められている。
L-サッカロピンは、ミトコンドリアにおけるリジン分解経路の中間代謝物であり、ミトコンドリア内に蓄積すると膜電位の低下や活性酸素種(ROS)の増加を引き起こし、ミトコンドリア機能障害を誘導する毒素であることが報告されている(https://doi.org/10.1083/jcb.201807204)。
発明者らは、早期老化疾患であるウェルナー症候群(WS)患者由来の細胞を用いたメタボローム解析を行い、L-サッカロピンの細胞内含有量が有意に高いことを発見した。さらに、健常者およびWS患者の尿中および血漿中のL-サッカロピン濃度を測定したところ、WS患者では健常者と比較して有意に高いことが明らかとなった。また、健常者においても加齢とともにL-サッカロピン濃度が有意に増加することが確認された。これらの結果から、尿中L-サッカロピン濃度は加齢に伴って増加し、ミトコンドリア機能障害を誘導する老化の毒素であるとともに、老化の指標となる可能性が示された。従来の細胞・組織ベースの老化評価法と異なり、尿検体は非侵襲的に採取可能であるため、簡便かつ実用的な老化バイオマーカーとしての応用が期待される。
Data
- 健常者(22-89歳:29名)およびWS患者(45-66歳:10名)の尿検体を用い、HPLCによりL-サッカロピンを定量し、尿中クレアチニン(U-Cre)含有量で補正した。WS患者の尿中L-サッカロピン濃度は健常者より有意に高く、健常者においても加齢とともに上昇する傾向が確認された
- 70歳以上の高齢者を判定するしきい値を671.9μg/g U-Crと設定すると、特異度80%、感度84.2%の精度が得られた。
- WS患者由来の細胞をリジン含有培地およびリジン制限培地で4ヶ月間培養し、細胞増殖(cPDL)とβ-ガラクトシダーゼ染色による老化細胞の割合を評価した。リジン制限により2ヶ月後も増殖が維持され、老化細胞の割合が有意に低減したことが確認された。

Expectations
老化マーカーやミトコンドリアの代謝に関する知見を用いた共同研究によって創薬開発、アンチエイジング製品の開発に関心のある企業とのパートナリングを期待しています。
- 診断薬企業・化学メーカー:L-サッカロピンの簡便な測定方法の開発
- 製薬企業:老化抑制薬やミトコンドリア機能に作用する薬剤の生体サンプルでの評価
- 健康食品やアンチエイジング製品の開発企業:尿中L-サッカロピンの測定による製品評価
Patents
WO2022/259950
Researchers
加藤 尚也 先生、大内 靖夫 先生、金子 ひより 先生、前澤 善朗 先生、江藤 浩之 先生、横手 幸太郎 先生(千葉大学・医学部)
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