金コロイド結晶‐Lシステイン‐金薄膜のMIM構造によってSERS分析の感度向上を実現
Advantages

- 新しいガラス基板処理技術の導入:APTES修飾ガラスに代わり、L-システイン修飾を施したMIM層にすることで、絶縁層を極薄にでき、電場減弱を最小限に抑えられる。
- 既存品との比較: nMオーダーの微量分子検出が可能で、市販最上位SERS基板と比較して3-4倍の感度向上を実現。
- 応用分野と期待:創薬、バイオマーカー検出、ウイルス診断、食品安全検査 など、多様な分野で高感度なセンサーとしての応用が期待される。
Background and Technology
SERS(表面増強ラマン分光)は、生体分子の超高感度分析を可能にし、バイオ・医療、化学分析、環境モニタリングなどの分野で広く利用されている。金粒子が規則的に配列したコロイド結晶は、プラスモニック特性に優れ、SERS基板としての応用が期待されている。その感度向上には、金属ナノ粒子を高密度に配列させ、強電場領域である「ホットスポット」を最適化することが不可欠であり、さらにMIM(金属‐絶縁体‐金属)構造の採用により、ラマン散乱強度が10倍以上向上することが確認されている。
従来のガラス基板に対する金コロイド結晶の吸着法においてはAPTESを用いる方法が一般的であったが、NaOH添加による結晶の不安定化が課題であった。これを改善するため、発明者らは酸化チタンなどの金属酸化物で基板をコーティングし、金コロイド結晶の安定的な吸着を実現した。酸化チタンを用いたMIM構造は表面プラズモン共鳴の増強には非常に有効であったが、SERS基板については、絶縁層の厚みにより電場強度が減弱し、期待した効果が得られなかった。
この課題を解決するため、発明者らは新たにアミノ酸であるL-システイン修飾を導入した。L-システインのSH基が金薄膜に強く吸着することで、絶縁層を極限まで薄くし、電場減弱を最小限に抑えることに成功した。この結果、SERS基板の感度が大幅に向上し、L-システイン修飾でランダム吸着させた金粒子によるSERS基板の感度はガラス基板と比較して17倍向上し、nMオーダーの微量分子検出が可能となった。さらに金コロイド結晶を吸着させたSERS基板では、ランダム吸着よりも数倍の感度向上が確認され、市販の最上位SERS基板よりも3-4倍高い性能を示した。
Data
- ガラス基板上の金薄膜をL-システインで修飾し、金コロイドをランダム吸着させたMIM(L-cys)基板、酸化チタンを絶縁体としたMIM(TiO₂)基板、金ナノ粒子を吸着させたGlass基板を用いて、異なる数密度 (ρ) のAuナノ粒子におけるSERS強度を測定した結果、Glass基板と比較してMIM(L-cys)基板の感度は約17倍向上した(A)。
- ガラス基板上の金薄膜をL-システインで修飾し、異なる粒子密度(115.6/µm²: Dep-1, 62.9/µm²: Dep-2)の金コロイド結晶を吸着させた基板を作製。ローダミンを検出対象としたラマン分光測定の結果、ランダム吸着(random)基板と比べ、ピーク面積で約4倍の感度を示した(B,C)。これは市販の最上位SERS基板よりも3~4倍高い値であった。


Expectations
本技術を用いてSERS基板を評価し、製品化に向けて共同で開発を進めていただける企業様を探しています。技術評価用のSERS基板の成果有体物提供契約(MTA:有償)が可能です。
Patents
特許第7079923号、他特許出願中(未公開)
Researchers
山中 淳平 先生、豊玉 彰子 先生(名古屋市立大学)
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