救急医療における外傷患者の層別化システム

2025/11/07 16:31 - By Tech Manage

搬送時に得られる14の基本情報から外傷患者のフェノタイプを判定し、 
リアルタイムに治療戦略構築をナビゲーション

Advantages

  • 救急医療現場において作業を増やすことなく、ビジュアル的に患者病態の特徴が推定可能
  • 該当フェノタイプの過去の死亡率、治療手段の奏効率などを表示
  • 高リスク患者の早期特定と適切な治療介入が可能となり、救命率向上に貢献
  • 敗血症やアナフィラキシーなど、様々な疾患への将来的な拡張性

Background and Technology

救急医療においては迅速かつ正確な病態把握と治療方針の決定が極めて重要となるが、交通事故などで見られる鈍的外傷の現場では、損傷が多臓器に及ぶことや、病態が刻々と変化することから、経験豊富な医師にとっても判断が難しい課題となっている。患者データから死亡率を推定する指標として従来用いられていた外傷重症度スコア(ISS: injury severity scaleやTRISS: trauma and injury severity scoreなど)は、主に診療の質の評価や疫学研究といった事後分析を目的としており、リアルタイムの予後予測や、個々の患者に最適な治療法を選択するための指針としては機能しづらいという限界があった。
この課題に対し、大阪大学の舘野助教らの研究グループは、7万人を超える大規模外傷データ(JTDB: Japan trauma data bank)を機械学習(シルエット分析)で解析し、患者を外傷フェノタイプで分類する手法を開発し、8つに分類することに成功した。本技術は、搬送後早期に得られる14の基本的な臨床情報のみを用いて、死亡率が約50%に達する超高リスクフェノタイプなどを迅速に特定する。さらにプロテオーム解析により、この超高リスクフェノタイプは過剰な炎症反応と血液凝固異常を特徴とし、抗炎症剤や血液凝固関連薬による標的治療の有効性が示唆された。加えて、バイタルサインの経時変化から患者のフェノタイプの移行を視覚的にリアルタイムに追跡できるソフトウェアも開発しており(上図)、患者の容体変化に即座に対応することが可能になる。
本技術は、経験則に頼ることなくデータに基づいて患者を精密に層別化することで、新たな治療戦略の立案や、特定のフェノタイプを対象とした治療薬開発への応用が大きく期待される。

Data

  • フェノタイプを8種類に分類、致死率の高いフェノタイプについてプロテオミクス解析により炎症・血液凝固に関する遺伝子の亢進が共通しており、治療方針策定の参考となることを解明(プレスリリース1)
  • トラネキサム酸(抗線溶剤)の使用が奏功する/死亡率を上げるフェノタイプを同定(プレスリリース2)

Current Stage and Next Steps

  • デモソフトウエア「Trauma Vis」を試作済
  • フェノタイプ毎の解析を推進中
  • 生成AIによる音声/画像による自動入力システムの構築(構想段階)
  • 本技術コンセプトの外傷以外への適用可能性の検討(構想段階)

Expectations

大阪大学では、本技術を用いた患者層別化システムをライセンスの下で共同開発する企業を募集しています。大阪大学との秘密保持契約の締結による未公開データ等の開示の他、本発明者とのご面談も可能です。
開発例1:電子カルテへの組込み
開発例2:音声入力やCT画像処理によるAIS(外傷重症度)自動入力システムの開発
開発例3:共同研究による適応疾患の拡大

Patents

  • 大阪大学より特許出願中(特開2023-108530、WO/2025/023226)

Publication

Researchers

舘野 丈太郎(大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 助教)


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