(1)低白金使用の燃料電池電極素材 (2)高密度の水素貯蔵素材 (3)高効率な一酸化炭素合成触媒
Advantages
- 筑波大学で初めて合成された新しい素材、ホウ化水素 HB特異な性質を持つと期待され学術界で注目され、多数の研究が世界中から報告されている。
- 特徴1:低白金使用の燃料電池電極素材
- HBが還元剤として働き、貴金属(Ru、Pd、Pt、Au)のナノ粒子が表面に生成。
- PtPd合金ナノ粒子を担持:固体高分子燃料電池(PEFC)のPt/C触媒の活性を凌駕する酸素還元反応(ORR)触媒。Ptの使用量削減効果に期待。
- Ag合金ナノ粒子を担持:酸素発生反応(OER)触媒Co3O4の活性を増進。水素発生(水分解)電極の補助剤として期待。
- Pt4FeCoNiCuのようなハイエントロピー(多成分)合金ナノ粒子を担持:固体高分子燃料電池(PEFC)のPt/C触媒の活性と耐久性を凌駕する酸素還元反応(ORR)触媒。Ptの使用量削減効果に期待。
- 特徴2:高密度の水素貯蔵素材
- 高い体積水素密度と質量水素密度を持つ
- 加熱、紫外線照射、低電気印加によって水素を放出
- 可視光の照射によって水素を放出する改良技術も開発
- 特徴3:高効率な一酸化炭素合成触媒
- ギ酸の蒸気を改質し、一酸化炭素と水を合成
- 生成物は高純度のCOガスで、副生成物がほとんどない
- さらなる用途展開も期待できる、新しい化学素材。ぜひ、新規触媒技術として取り込むユーザー企業様と、協業をご相談したい。
Background and Technology
二次元的な分子構造を持つ「ホウ化水素(HB)」は筑波大学数理物質系所属の近藤剛弘先生らにより2017年に初めて合成された新しい素材です(論文1)。ホウ化水素は、(1)優れた還元特性を使った燃料電池電極や水電解電極、(2)大量に水素原子を含む水素貯蔵素材、(3)優れた触媒活性を使ったギ酸からの一酸化炭素合成、と言った広い用途が見つかっています。
■(1)優れた還元特性を使った燃料電池電極や水電解電極
ホウ化水素(HB)は、還元剤の性質を持ち、ニッケルよりも酸化還元電位が高い金属、例えばSn、Cu、Pd、Pt、Auを還元します。そして、驚くべきことに、その還元した金属がHBの表面でナノ粒子として現れます(下図)。PtやPd、Auといった触媒活性に優れた貴金属が、粒径1-6 nmの高い分散性を持った状態でHB上に現れるため、その活性がさらに高まることが期待されます。
実際、次のような活用が報告されています。
PtPd合金粒子を担持したHBは酸素還元反応(ORR)の活性を持ちます(論文2)。その活性は固体高分子燃料電池に典型的に使われる Pt/Cの数倍の質量活性および比活性を示します。
別の報告(論文3)では、反応を工夫した結果できたPt粒子が、小さいサイズ(2.5 nm)、高密度(最大80質量%)、シンタリングに対する高い安定性を持つとされます。同報告では、多成分の金属化合物(Pt4FeCoNiCu)をHB上に作り、市販のPt/Cよりも大幅に向上した質量活性、比活性、および非常に優れた耐久性を示すことも報告しています。
また、さらに別の例(論文4)では、HB上に生成したAgナノ粒子を酸素発生反応(OER)触媒Co3O4と組み合わせることで、IrO2触媒よりも優れた酸素発生反応活性を持つと報告しています。
つまり、HBに担持されたPtや合金のナノ粒子は、Pt本来の触媒活性を増強すると考えられ、Ptの使用量の削減につながります。従来使われているカーボンブラックやグラフェンなどの担体からHBに置き換えることで、燃料電池や水電解などにおける低コスト化が期待できます。
■(2)高密度の水素貯蔵素材ホウ化水素HBは文字通り水素を含む化合物ですので、水素貯蔵素材として活用が期待されます。HBの体積水素密度と質量水素密度はそれぞれ、およそ100 kgH2/m3と8.5 H質量%であり、他の水素貯蔵素材に匹敵します。
HBは、150℃以上の加熱や、紫外線の照射、電流の印加などの外部刺激によって、水素を放出することがわかっています。さらに最近の東工大宮内先生との共同研究では、HBに色素分子を付けた新しい化合物を開発しました。このHB改良品は、可視光を照射するだけで水素が放出します(論文5)。
■(3)高効率な一酸化炭素合成触媒
ホウ化水素の特殊な性質の3つ目は、ギ酸を改質し、一酸化炭素を生成する、脱水反応触媒です(発表1参照)。この触媒は、ギ酸の蒸気(120~300℃)を改質し、一酸化炭素と水を生成します。優れた特徴は、副生成物である二酸化炭素CO2が出ない、つまり選択性が高いことです。得られる一酸化炭素COガスは非常に純度が高い(100%)ため、COを使う後工程で非常に使いやすいことは、工業上の大きな利点と考えます。
一酸化炭素は現在、コークスのガス化や、軽質炭化水素(天然ガスやナフサなど)を水蒸気改質し水素を得る反応の副生成物といった形で製造されます。しかし一般にCOの純度は高くないため、後段のCOを材料とするカルボン酸合成やオキソ反応、ポリウレタン原料合成などにおいて扱いにくさや精製のコストが発生します。ホウ化水素によるギ酸改質はそうした問題を解決し、高純度COの低コスト利用を可能にします。
以上のように、ホウ化水素は、単体での触媒活性や、水素貯蔵素材の側面など非常に興味深い特性を持つ最先端の素材です。現在も国内外で新しい用途や性質が発見されています。最近の研究状況は近藤先生自身によるレビュー論文(論文6)が詳しいです。
本資料でお見せした以外にも新しい性質があるかも知れません。ぜひ貴社との協業によりホウ化水素を元にした新しい技術開発ができますと幸いです。
Expectations
筑波大学では、本技術「ホウ化水素」を利用した事業を行う企業を探しています。白金の使用量の大幅削減や水分解水素精製、他の酸素還元・生成反応などの反応効率化など、広い分野での効果が期待されます。ぜひ、貴社の次世代事業として導入を検討ください。
以下のように情報やサンプルを提供でき、貴社での本技術の導入の検討・事業化の支援をご相談できます。
- ご質問への対応
- 先生とのご面談による詳細説明
- NDA締結下での情報交換
- 少量のサンプル品の提供(有体物移転契約)
- 共同研究
- 特許ライセンス
Patent & Publication
- 論文1:近藤先生らによる、HBの合成報告論文
Formation and Characterization of Hydrogen Boride Sheets Derived from MgB2 by Cation Exchange
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b06153 - 論文2:HB担持PtPdナノ粒子の固体高分子燃料電池電極用途の報告
Hydrogenated Boride-Assisted Gram-Scale Production of Platinum–Palladium Alloy Nanoparticles on Carbon Black for PEMFC Cathodes: A Study from a Practical Standpoint
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.2c08510 - 論文3:HB担持Ptナノ粒子や多元金属ナノ粒子の報告
Hydrogenated borophene enabled synthesis of multielement intermetallic catalysts.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-43294-z - 論文4:HB担持Agナノ粒子が酸素発生反応(OER)を促進
Ag nanoparticles modified crumpled borophene supported Co3O4 catalyst showing superior oxygen evolution reaction (OER) performance
https://doi.org/10.1016/j.apcatb.2021.120529 - 論文5:宮内先生と近藤先生らによる、可視光で水素を放出する改良型HBの報告
Visible-Light-Driven Hydrogen Release from Dye-Sensitized Hydrogen Boride Nanosheets
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.4c07768 - 発表1:近藤先生らによる、HBのギ酸改質・一酸化炭素生成触媒機能の報告
Investigation on the Catalytic Performance of Hydrogen Boride for Formic Acid
https://doi.org/10.14886/jvss.2023.0_2Hp04 - 論文6:近藤先生による、HBに関するレビュー論文
Advancements in Freestanding Hydrogen Boride Sheets: Unraveling the Novel Properties of Borophane Polymorphs
https://academic.oup.com/chemlett/article/52/7/611/7382019 - HBの還元剤としての特性に関する特許出願 WO2020/179779
- 論文1:近藤先生らによる、HBの合成報告論文
Researchers
近藤 剛弘 (筑波大学 数理物質系 教授)
宮内 雅浩 (東京工業大学 物質理工学院 教授)
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