高性能かつメタルフリーの燃料電池触媒 窒素ドープグラフェン

2024/04/10 12:53 By Tech Manage

Advantages

  • 非金属で作られた、燃料電池の正極材料
  • コストに優れる
  • 酸性電解質による触媒劣化や、メタノール・ギ酸燃料電池で起こる、一酸化炭素(CO)による電極の被毒に対し、耐久性に優れる
  • メタルフリー触媒として世界最高レベルの触媒活性

Background and Technology

新しいエネルギー源として期待される水素電池には、電極素材として白金が使われます。しかし白金は高価かつ希少資源であるため、使用量の低減や無使用化が求められています。このたび、筑波大学では、白金を含む金属を含まない、非常に性能が高い燃料電池の電極素材を開発しました。これは、「グラフェン」という炭素原子がハチの巣のように六角形に結びついた構造を持つシート状の物質を素材として、独自の技術を適用した新しい素材となります。
本素材は、白金系触媒の使用において生じる大きな問題を解決します。まず、燃料電池の半分程度を占める触媒コストを1/10程度にまで低減できると見込まれます。また、水素燃料電池では、酸性電解質による触媒の劣化、メタノール・ギ酸燃料電池では一酸化炭素(CO)による披毒が問題となりますが、本素材は両者に対して高い耐久性を有します。つまり、本素材は燃料電池の電極として安定性が高いため、燃料電池の寿命を延ばすことやランニングコストの低減をもたらすと期待されます。

本素材に関する科学的な詳細は、以下の通りです。
  • グラフェン中の一部の炭素を窒素に置き換えた、窒素ドープグラフェン(NrGO)を基材とする。この窒素が燃料電池において活性点となっている。
  • NrGOを合成する際に、塩(NaCl)のような「鋳型」になる物質を合わせて合成することで、NrGOが「カゴ」の様な隙間の空いた構造を取る。通常のNrGOは酸性溶液中で活性が低下してしまっていた。これは活性点である窒素が水和して安定化してしまうからと考えられる。「カゴ状NrGO」は疎水性を持つようになるため、水和を抑制でき、結果としてより高い触媒活性を持つようになる。
  • さらに、プロトン(水素イオン)を活性点である窒素へ輸送するために、ナフィオンや鶴岡高専が開発したプロトン伝導補助剤(「PSiP」と呼ぶ)を混合した。この補助剤はシリカの微粒子の表面に高分子ポリマーが担持された物質で、これがカゴ状NrGOの表面に付着することで、プロトンを活性点である窒素まで効率的に輸送する。結果として、さらに高い電極性能を持つようになった。
図1
(左図)カゴ状NrGOの構造と、プロトン伝導補助剤の付着の状況に関する想像図。NrGOのカゴの内部は疎水的な状態になった結果、活性点である窒素の水和を防ぎ、触媒活性を向上した。また、プロトン伝導補助剤PSiPは150 nm程度のシリカ粒子とそこに担持されたポリマーからなり、NrGOの表面に付着し、プロトンを供給していると考えられる。
(右図)酸性条件にある半電池に用いた場合の触媒活性を比較する、電流-電圧曲線。NrGOをカゴ状にしプロトン伝導補助剤を加えることで、白金(Pt/C)に0.1 Vに迫る触媒活性を持つことがわかる。
図2
触媒の耐久性の比較実験結果。1時間毎に酸素を導入することで半電池を駆動し、その際に発生する電流密度の時間変化を観察した。Pt/CやFePc/Cでは1回目の酸素導入中に電流密度の低下が起こり、2回目にもこれが継続している。一方で、NrGOおよびカゴ状NrGOでは酸素導入中にも電流密度の低下が起こっていない。これは、NrGOが一酸化炭素による被毒に高い耐性を持つことが理由と考えられる。

図3

本素材を電極とする膜電極接合体(MEA)を作成し、評価を行った結果。現時点で、カゴ状NrGOを採用することで、1/100 質量%のPtを含む電極を使用したMEAを超える電池性能を得ている。数年以内をめどに、1/10 質量%のPtを含むMEAに匹敵する性能向上に向け、研究を継続中。

Expectations

本素材の製造、燃料電池への利用をお考えの企業とのコラボレーションを募集しています。本素材をぜひ、貴社の新規事業としてご採用ください。
素材・技術開発にあたり、以下の対応を検討できます。
  • 詳しい技術の説明のために開発者(武安先生)との面談
  • NrGOの少量サンプルの有償提供
  • 技術情報を交換するための秘密保持契約
  • 技術開発のための共同研究契約

Publications

【窒素ドープグラフェンについて】

 

【カゴ状構造と添加剤による活性向上について】

 

【新聞発表】

日刊工業新聞 2022年11月16日

「筑波大など、メタルフリーの燃料電池触媒開発 低コスト化に道」

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/654418

Researchers

武安 光太郎 (北海道大学 触媒科学研究所)

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