男性不妊の見える化。精巣の精子産生能をMRIで画像化する新技術

2024/10/10 15:33 By Tech Manage

Advantages

  • 男性不妊症診療において精巣の精子産生能を非侵襲的に評価できるMRI技術
  • 精巣中の精子産生能と相関があるクレアチン濃度を、特殊なMRIで測定する
  • 男性不妊症の診断や治療方針決定に有用な情報を提供する
  • 良好な空間分解能により顕微鏡下精巣内精子採取術の精子採取率の向上が期待できる
  • 企業へのご提案
    MRI装置メーカー様:クレアチン濃度分布を撮像する新機能
    製薬企業様:不妊症治療薬開発の情報提供や共同研究

Background and Technology

男性不妊症の診断やその治療開発に役立つ、MRIの新しい応用技術を紹介する。この技術は精巣の精子産生能を評価できるだけでなく、精子産性能のある部位を視覚化できる。精子の産生に使われる「クレアチン」(有機酸の一種であり筋肉のエネルギー源として知られている)の濃度分布を、化学交換飽和移動に基づく磁気共鳴イメージング(CEST-MRI)によって測定すると、精子産性能のある部位をクレアチン濃度が高い領域として可視化できる。
男性不妊の主な理由は、精液量が少ない精液減少症、精子の数が少ない乏精子症、そして精液中に精子が全く存在しない無精子症がある。これらの原因解明と適切な治療法選択には精巣機能の状態把握が重要である。精液から精子を採取できない場合には手術(顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro TESE))によって精巣組織から精子採取を試みるが、精子採取率は約30%と低いことから、精子産性能のある部位を視覚化できる手法が求められている。
大阪大学大学院医学系研究科の木岡秀隆先生や、泌尿器科が専門の福原慎一郎先生らは、このたび、精巣機能の状態把握による治療方針の策定や、手術・治療後の予後判断といった場面で大きな貢献が期待できる、上述の新技術を開発した。
開発者らは、すでにin vivo実験で技術を実証している。精巣が腹腔内に停留した状態(停留精巣)や、精巣捻転を模倣することで精巣虚血を起こした状態のモデルマウスに対して本技術を適用し、クレアチン濃度をもとに精巣の機能不全を検出できることを確認した(図1)。また、精巣に放射線を照射したマウスを使った別の実験では、放射線を照射された部位とそうでない部位とでクレアチン濃度の違いが見られた。
開発者らはさらに、男性不妊の主な原因の一つである精索静脈瘤の患者に対しても、本技術の有効性を確認している。本技術でクレアチン濃度を測定した結果、健常者では左右の精巣で濃度の違いは見られなかったが(図2左)、精索静脈瘤の患者においては患側(左)の精巣のクレアチン濃度が低下していた(図2中央)。また、重要なことに精索静脈瘤の手術後には左の精巣のクレアチン濃度が改善し、左右差が消失した(図2右)。これは本技術が精巣の精子産生能を正確に反映できていることを意味している。同時に、本技術使用による精巣の温度変化や外見の異常、被験者からの異常の訴えは認めず、本技術の安全性も確認出来ている。今後、さらなる症例の蓄積により、手術の効果確認としての本技術の優位性が明らかになると期待される。
顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro TESE)は精液から精子を採取できない男性不妊患者に対して、精巣組織から精子を採取する手術であるが、成功率は30%程度と低い。成功率向上のためには精子が存在する場所の可視化が不可欠である。本技術が精子を採取できる可能性がある領域を可視化することで、Micro TESEの精子採取率の向上が期待される。また、他に本技術を活用できる場面としては、男性不妊症の薬物治療開発に関する研究・開発のための情報提供である。本技術が精子産生能の客観的指標を簡便に提示することで、男性不妊に対する創薬開発を促進すると期待できる。

以上のように本技術は、適切な診断、適切な治療方針の選択、手術効果の確認、Micro TESEの成功率向上、創薬開発における精子産生能の客観指標として有用であり、少子化にあらがうための新しい戦略の開発に活用しうる。

Expectations

大阪大学は、本技術を用いた男性不妊診療の検査や治療法確立を目指し、協業いただける企業様を募っております。
  • MRI装置メーカー様へ:貴社のMRI装置へ、本技術を搭載してはいかがでしょうか? 貴社製品のポテンシャルをさらに引き出し、新しい事業やサービスへ展開しうると期待します。
  • 製薬企業様へ:男性不妊症の治療薬や治療法の開発に、本技術を活用しませんか? 貴社内でのご利用はもちろん、大阪大学との共同研究による治療技術開発もご相談できます。
開発者らは現在、in vivoにて技術の基礎的な実証を完了し、臨床研究での実用化に向けた知見を収集しています。開発チームには、泌尿器の専門家やMRI画像診断の専門家などプロフェッショナルが集まっています。開発者と意見交換により技術の詳細だけでなく、不妊症治療の臨床からのニーズをご提供いたしますので、具体的な事業化に向けた戦略をご相談できますと幸いです。

以下のような段階を踏んで情報や知見を提供でき、貴社での本技術の導入の検討・事業化の支援をご相談できます。
  • ご質問への対応
  • 先生とのご面談による詳細説明
  • NDA締結下での情報交換
  • 共同研究
  • 特許ライセンス

Patents

  • 特許出願 WO2022/118906 

Researchers

大阪大学大学院医学系研究科 助教 木岡 秀隆
大阪大学大学院医学系研究科 准教授 福原 慎一郎


Please click here to see English summary.

以下のフォームからお問い合わせください

Tech Manage