肝がんの脂肪化率を評価することで複合免疫治療とマルチキナーゼ治療の処方判断が可能になる
Advantages
- 非侵襲的な診断: MRIを用いることで、肝がん組織の免疫動態を非侵襲的に評価可能
- 科学的根拠に基づく診断: 脂肪化の要因であるパルミチン酸の蓄積と免疫疲弊のメカニズムを解明
- 治療選択の最適化: 複合免疫療法やマルチキナーゼ阻害剤の適用判断が可能になり適した治療選択を支援
Background and Technology
肝細胞がんの治療には、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、マルチキナーゼ阻害剤、血管新生阻害剤などが使用される。しかし、それぞれの薬剤の奏効率は約30%程度にとどまっており、より効果的な治療選択のためにバイオマーカーの開発が求められている。
免疫プロファイルがICIの効果を反映すると考えられるが、臨床現場では画像診断を基に治療が決定されるため、治療開始前に腫瘍生検を行い、免疫状態を評価するのは困難である。
発明者らの解析の結果、脂肪を多く含む肝がん(脂肪化肝がん)は全体の23%に見られ、T細胞の疲弊、M2マクロファージや癌関連線維芽細胞(CAF)の浸潤、腫瘍細胞におけるPD-L1の高発現、TGF-βシグナルの活性化といった、免疫抑制的な環境を持つことが明らかになった。MRIを用いて脂肪沈着の有無を評価し、ICI治療を受けた患者の治療効果との関係を調査した結果、脂肪化肝がん患者の無増悪生存率と病勢制御率がともに100%であることが確認された。このことから、MRI画像で識別できる脂肪化肝がんが、免疫治療の効果を予測する新たな指標となる可能性が示された。また、脂肪化肝がんは非脂肪化肝がんと比較して、レンバチニブ治療を受けた際の無増悪生存期間の中央値が有意に短く、病勢制御率も低かった。この結果から、MRIで脂肪化率を測定することによって複合免疫療法やマルチキナーゼ阻害剤の適用判断に利用できる可能性が示唆された。
Data
- 脂肪含有肝がん患者組織ではPD-L1の発現が亢進していた(A,B)
- MRI(in-phase/opposite-phase)画像を用いて、組織染色と同等に脂肪含有率を測定可能であった(C,D)
- アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)+ベバシズマブ(抗VEGF抗体)併用療法を受けた脂肪含有肝がん患者の病態制御率は100%であり、無増悪生存率が有意に高かった(E,F)レンバチニブ治療を受けた脂肪化肝がん患者は、非脂肪化肝がん患者に比べ無増悪生存期間が短く、病勢制御率も低かった。

Expectations
- 肝がんに対する治療薬を開発している製薬企業や画像診断技術を有するCROと連携し、患者層別化のためのバイオマーカーとしてライセンス提供を希望します
- 画像解析ソフト開発企業や協力し、肝がんの画像診断ソフトを開発することも歓迎します
Researchers
小玉 尚宏 先生(大阪大学 大学院医学系研究科 消化器内科)
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