強度を低下せずに金属を接合する、摩擦圧接、摩擦撹拌接合の新技術

2021/07/13 16:19 By Tech Manage

Advantages

  • ​金属の強度を低下させずに接合する新技術
  • 炭素鋼や高張力鋼など、これまで接合が困難だった部材の接合も可能に。
  • 棒材、板材、中空材など様々な形状の接合に対するソリューションを提供

Background and Technology

​自動車や鉄道車両、航空機、建物、橋脚などあらゆる場所で接合技術が使われているが、その中で、近年、固相接合技術に注目が集まっている。固相接合では、接合の対象となる部材(多くは鉄やアルミニウムなどの金属)に熱を加えることで、接合面の一部を軟らかくするとともに、圧力を与えて押しつけることで、軟らかくなった金属を塑性変形させて接合する。このとき熱の与え方はさまざまあり、部材自身を高速で回転または摺動し接合面で擦り合わせることで加熱する「摩擦圧接」、ツールと呼ばれる円柱状の金属部品を高速に回転しながら、接合部材に押しつけることで部材を摩擦しながら加熱する「摩擦撹拌接合(FSW)」が知られている。一般的に普及しているアーク溶接や抵抗溶接(スポット溶接)と違い、固相接合では部材は高温にならず溶けないため、高温によって生じる結晶状態の変化や脆化が起こりにくい。そのため、接合部の強度劣化を抑えることができ、より強度の高い部品を製造することが出来る。しかしながら、固相接合技術は適用できる条件に限りがあることが多く、また接合部の強度劣化を完全にゼロにする手法は確立していなかった。

大阪大学接合科学研究所の藤井英俊教授らは長年の研究から、固相接合に関する新たな手法を開発した。

低温摩擦圧接・低温摩擦撹拌接合

藤井教授らは、接合部の強度が劣化しない「低温固相接合技術」を開発した。従来の固相接合では、接合部材やツールを非常に高速(数1000 rpm)で回転させて接合部を融点に近い温度まで加熱して接合している。その結果、接合面の付近では熱によって金属結晶粒の肥大や組織変態を持つ「熱影響部」ができ、接合部の強度が劣化してしまう。

対して、藤井教授らの技術では、接合部材やFSWツールの回転速度を1000 rpmよりも遅くすることで摩擦熱の発生を抑え、部材の温度を下げるという逆転の発想により、熱影響部を発生させずに接合できる。低回転化によって温度が低下するものの、部材やFSWツールを押しつける圧力を高めることで、接合面から材料をバリとして排出しながら、接合することが出来る。その結果、接合時の温度は、熱影響部が発生する温度(変態点温度)よりも十分に低いため、強度劣化の原因となる熱影響部がない、非常に優れた接合部材を得ることが出来る。

引き上げ式FSW技術

藤井教授らは、複雑な形状や中空の部材を摩擦撹拌接合する新しい接合手法を開発した。従来、中空部材や重ね合わせ材の接合では、ボビン式と呼ばれる特殊な接合ツールを用いた手法が知られている。これは、通常のFSWにおいて被接合材にかかる圧力を支える裏板を中空材では設置できないためにとられる手法である。

対して、藤井教授らの技術では、下図のような特殊形状のツール、先端がフランジ状に広がった構造(ショルダー)を持つ回転ツール、を用いる。このツールを接合部の裏面(中空の内側)から表面(中空の外側)に向けて挿入し、表側にある装置にツールを取り付け、ツールを引き上げるように圧力と回転を加えて摩擦撹拌する。これによりボビンツールを用いない中空構造やダブルススキン構造体(車両、タンク、パイプなど)の接合が可能となる。また、ボビン式FSWと異なり、ツールに傾斜角を持たせて接合できるため、適用可能な接合条件が広く、条件出しが容易になるほか、高速化や低入熱による高強度化が期待できる。さらには表面に当て板することにより、通常のFSW(中空構造の表面からツールを挿入)であれば接合後に残ってしまう撹拌痕が発生せず、表面が平滑で意匠性が高い接合加工ができる。

Expectations

装置メーカー様へ

本技術を採用する接合装置の開発・事業化を担当いただける企業様を探しています。貴社がお持ちの加工装置技術を活用した、新時代の接合装置をご提案いたします。例えば、NC加工機をご専門のメーカー様へは、摩擦圧接やFSWといた接合機能をハイブリッドした装置はいかがでしょうか。本技術に対しては、すでに自動車関連メーカーや金属部材加工メーカーからのニーズを多くいただいております。大阪大学との共同研究などを通じた、貴社の新規事業、オープンイノベーションとして、事業化をご検討いただきますと幸いです。

金属加工・製品製造メーカー様へ

貴社の製品製造に、本技術を採用いただける企業様を探しています。本技術が適用できない素材は今のところございません。鋼系材料なら炭素鋼や高張力鋼(ハイテン)などこれまで接合が困難だった部材を、高強度に接合できます。また、アルミ材料についても高強度の部材を製造できる画期的な製法と考えております。強度の向上はもちろん、従来強度劣化対策に必要だった肉厚の増量や特殊な構造が不要になり、設計面からの改善・軽量化・材料コスト減などの効果も期待されます。お取り扱いの製品で本技術が適用できるかの検証をご希望でしたら、大阪大学との共同研究がご提案できますので、是非お声がけください。


技術面でさらに情報をご希望でしたら、弊社へお声がけいただきましたら、資料送付やオンライン打合せにてご説明、大阪大学の開発者との面談(オンライン、オフライン可)の機会を提供いたします。

Researcher

大阪大学 接合科学研究所 藤井英俊 教授

Publications

本技術によって、なぜ強度を劣化させずに金属を接合できるのか、詳しくは以下の資料をご覧ください。

科学技術振興機構主催、新技術説明会

発表概要 https://shingi.jst.go.jp/list/osaka-u/2016_osaka-u.html

発表資料 https://shingi.jst.go.jp/var/rev0/0000/4343/2016_osaka-u_5.pdf


アルミニウムでの実例は、以下のWebページにてご覧いただけます。

大阪大学 研究紹介サイト

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201126_2

Movie

以下のYoutube動画で藤井先生がご研究成果をお話しされています。

以下のフォームからお問い合わせください

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