Advantages
- 水素原子を結合したシリコンという簡便な素材で、量子もつれ状態を達成
- 極低温環境を必要とせず、液体窒素による冷却で達する温度(77ケルビン)で動作
- シリコン(固体)表面上に大量の量子ビット(1 cm2あたり1015個)を形成
- 動作原理はNMRと類似。テラヘルツ波照射によって量子情報処理を制御
- 量子メモリや量子センサなどのアプリケーションへの適用に期待大
Background
量子コンピュータや量子メモリなど、量子技術の根幹となるのは量子ビットである。量子技術は高速かつ高度な情報処理を可能とすると期待され、世界中で研究されている。
しかしながら、量子ビットを作り出すには現在、絶対零度に近い極低温環境(約-273 ℃)や化学的・物理的に純度の高い素材と環境を必要とするなど、多くの技術課題がある。
また、量子情報計算に用いるために必要な、数百から数万という多数の量子ビットとそれらを長時間保持する技術はさらに困難な課題とされる。
本技術は、こうした技術課題を解決しうる、新たな量子ビットの構築方法を提案する。
Technology and Data
表面に水素が結合したシリコンのナノ粒子を準備した。これは、水素原子2個と結合したシリコン、つまりSiH2が表面に露出している状態であり、この水素原子のエネルギー状態は、調和振動子モデルで記述できると考えられる。
非弾性中性子散乱法を使いエネルギー状態を測定した。その結果、調和振動子モデルからは2SCというエネルギー状態の存在が予測されたにもかかわらず、この状態が観測されなかった。
その上、通常の調和振動子モデルからは予想されないエネルギー状態が見つかった。このエネルギー状態はシリコンに結合した水素原子2個が,量子もつれ状態にないと発生しないものだった。
つまり、水素化シリコン表面に存在する水素原子同士が量子もつれ状態にあるという驚くべき事実が明らかになった。
この水素原子のペアは量子ビットとして扱うことができ、将来的にはこの量子ビットを量子コンピュータや量子メモリなどの量子情報素子に応用することが期待される。
- シリコン結晶表面上に形成できる量子ビットは1cm2あたり1015個。従来技術では未達成である、多数の量子ビット群形成に期待大
- 水素ペア量子ビットの情報演算には、テラヘルツ波光を使う。周波数30THz、つまり波長10μmの中赤外光を照射することで、量子ビットの初期化・読み書き・演算処理が可能
- 理論研究から、現在のところ、量子もつれが数秒以上保持できうることが判明。従来技術が可能なナノ秒やマイクロ秒程度に比べ飛躍的に長いため、量子誤り訂正の簡素化や外乱を除去する設備の省略など、コストダウンと小型化に寄与
Expectations
Publications
Physical Review B 103, 245401
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.103.245401
Researchers
名古屋市立大学 芸術工学研究科産業イノベーションデザイン領域 教授 松本貴裕